人に迷惑をかけた時に役立つ個人賠償責任保険

個人賠償責任保険という保険商品をご存じでしょうか。

この保険が注目をされた2つの社会問題となった事故があります。

それは【自転車による死亡事故】【認知症患者の鉄道事故】です。

1つずつ見ていきましょう。

田中 嘉理

FP事務所 ビジネス&ライフサポート代表

田中 嘉理

資格
ファイナンシャルプランナー(CFP)、1級FP技能士、宅地建物取引士、証券外務員一種
経歴
早稲田大学卒業後大手損害保険会社に30年間勤務し、その後地元福岡にU ターンして大手来店型保険ショップ本社に3年間勤務する。独立後も生損保事業者の団体に所属しながら保険事業者に対してコンサルタント等を行っている。FPとしてはセミナーや相談業務等を行いながら消費者のニーズを吸い取り、保険を販売しない中立的な立場で保険事業者と消費者の最良の関係を築くことを目標に活動している。
活動情報

世間に衝撃を与えた2つの事故

まず、自転車による死亡事故です。

2017年12月に川崎市で起こった、スマートフォンを操作しながら電動自転車に乗っていた女子大生が、歩道を歩行中の77歳の女性にぶつけて死亡させたという事故です。

右手に飲み物、左手にスマホを持ちながら、左耳にイヤホンをした状態で事故を起こしたことが悪質であると判断され、検察に起訴されました。

当時マスコミに大きく報道されました。

当然賠償額も高額になるだろうという予想から、それに対応する個人賠償責任保険がマスコミに取り上げられました。

ただ、高額賠償額の自転車事故というのはそれ以前から起こっていました。

2008年6月男子高校生が起こした賠償額9,266万円、2013年3月に小学5年生の少年が起こした賠償額9,520万円の事故などがそうです。

自治体もこのまま放ってはおけないと、2015年10月に兵庫県が「自転車保険の加入」を義務化しました。

その後この動きは全国に広がり、埼玉県や大阪府などの多くの自治体が義務化しています。

ただ、自転車保険といっても自転車事故の賠償責任を補償できるものだけでなく、自動車保険や火災保険の特約の個人賠償責任保険や共済なども含んでいます。

余談ですが以前は損害保険会社のほとんどが「自転車保険」も「個人賠償責任保険」も単品で販売していました。

しかし、年間保険料が数千円とコスパが悪すぎたため個人賠償責任保険は特約として、自転車保険は販売コストの低い通販を中心に販売するようになったという経緯があります。

次に認知症患者の鉄道事故ですが、2007年12月、JR東海・大府駅にて認知症のため徘徊していた91歳の男性がはねられて亡くなりました。

JR東海は85歳妻、要介護1と別居の長男に事故による振替輸送費等の損害賠償約720万円を求める裁判を起こしました。

一審は妻の過失責任と長男の監督責任を認め、2人に約720万円の賠償を命じました。

二審では同居していた妻だけの監督責任を認め、約360万円の賠償が命じられました。

しかし、2016年の最高裁判決では「監督義務者不在」という判断で賠償請求は棄却されました。

この事故では最終的には賠償請求は棄却されましたが、このような事故では同居の配偶者や別居の子供が賠償請求される可能性があることを世間に知らしめました。

私もこのニュースを聞いたときにはショックを受けました。

なぜなら、痴呆症の親が鉄道事故を起した際、離れて暮らす子供にまで賠償責任が及ぶ可能性があるなどとは微塵も考えたことがなかったからです。

この事故の場合は数百万でしたが、もしもある日突然、事故状況次第では数千万、数億円の請求がされる可能性があると考えたらぞっとしました。

2025年には65歳以上の5人に1人が認知症にかかると言われています。現実問題として、日本人の多くにその可能性があるのです。

そのような事態にならないように自己防衛を考えるのは当然の流れなのです。

超高齢社会のニーズで生まれた新型個人賠償責任保険

そこで浮上したのが個人賠償責任保険でした。

ただ、当時の個人賠償責任保険では前述の大府駅での事故の場合、たとえ賠償責任が認められたとしても補償はできませんでした。

個人賠償責任保険とは他人の物を壊したり、他人にケガをさせてしまったときに法律上の損害賠償責任を負う場合に保険金が支払われる保険なのです。

大府駅の事故では電車の車両は破損してなく、乗客もケガしていませんので保険金支払いの対象になりません。

もう一つ補償できない理由は、被保険者(補償される人)の範囲です。それは「本人(契約時に指定)、配偶者、本人または配偶者と生計を共にする同居の親族、プラス生計を共にする別居の未婚の子(仕送りを受けている学生など)」です。

大府駅の事故の場合、亡くなられた男性を本人とすると別居の長男は65歳で既婚なので被保険者にはなりません。 

そこで、この訴訟結果を受けてまず、一部の保険会社が個人賠償責任保険を改定しました。

改定内容は大府の事故のように、重度の認知症などによる責任無能力者が電車を止めてしまったような事故の場合に被保険者の範囲を親族の監督義務者(別居でも可)まで広げたり、財物損壊や人のケガを伴わない電車の運行不能等による損害賠償も補償するというものです。

ここで注意しなければならないのは改定した会社は一部の保険会社です。

また、改定した保険会社でも商品の種類によっては改定されていない可能性があります。

さらに、改定された商品でも保険始期によって改定されていないかもしれません。

長期の火災保険で改定前始期の商品だと個人賠償責任特約が付いていたとしても改定前の内容なのです。

実際は認知症の親族がいる方は、「上記のような鉄道事故に対応できる個人賠償責任保険の内容なのか」を個別にしっかりと確認する必要があります。

以上は社会問題となった2つの事故を通して個人賠償責任保険を見てきましたが、そもそも従来の個人賠償責任保険とはどのような保険なのでしょうか。

簡単に言えば、「日常生活の中で誤って他人の物を壊したり、他人にケガをさせた場合に法的な賠償請求を受けたときに補償する保険」です。

仕事中は補償されない個人賠償責任保険

ここで注目してもらいたいのは「日常生活の中」です。日常生活というのは一般的には毎日繰り返される様々な事柄という意味で漠然としています。

ですが、保険上は「仕事中は除く」という明確な境界線があります。

個人賠償責任保険の約款中の保険金を支払わない場合の項目中にも「被保険者の職務遂行に直接起因する賠償責任」と書かれています。

この点を十分に注意してください。

自転車事故でも「仕事中」であったなら、個人賠償責任保険では補償できないということです。

学生の通学中の事故は個人賠償責任保険で補償できますが、たとえ学生でも、例えば新聞配達中の事故は補償されません。

会社員が自転車で営業回りしているときに起こした事故も補償されません。

このような仕事中の賠償事故を補償するには別の種類の賠償責任保険を付けなければなりません。

だから、保険料が低額であるとも言えます。

示談交渉付の個人賠償責任保険

個人賠償責任保険の事故例としてよく取り上げられるのは、

  • 飼い犬が散歩中に他人にかみついてケガをさせた
  • 子供が野球をしていて近所の家の窓ガラスを割った

等の日常生活の中で起こりそうな出来事です。

このような事故の場合には賠償額はそれ程大きくなりませんが、相手との交渉がこじれる場合があります。

そんなときに頼りになるのが「示談交渉付」の個人賠償責任保険です。

従来の個人賠償責任保険では「保険金は払うが、それまでの示談交渉は各自で行ってください」というものでした。

個人賠償責任保険が火災保険や自動車保険の特約として販売され出した頃から「示談交渉付」個人賠償責任保険が販売され始めました。

今でも「示談交渉付」というのは限られています。ですので、示談交渉付を希望する方は加入する際に確認してください。

共同住宅には必須の個人賠償責任保険

ところで、不動産業者によっては賃貸契約を結ぶ際には家財の火災保険とともに、個人賠償責任特約に加入することを義務付けている会社が多くあります。

それは入居者間のトラブルの可能性があるからです。

その中で意外と起こるのが水道の出しっぱなしによる事故です。

私も若い頃に帰省していた実家から戻ってきてドアを開けたら、自宅の部屋の中の畳がすべてなくなっていたことにびっくりした経験があります。

何が起こったか分からず茫然としていたら大家さんが来て説明してくれました。

なんでも、上の階の住人が水道を出しっぱなしにして外出し、下の階の私の部屋を水浸しにしたとのこと。

被害を受けた部屋は会社の借り上げ社宅で、幸い家財は小損害でした。

また、大家さんが人のいいお爺さんで、一生懸命復旧の手配をしてくれたので文句は言えませんでした。

ただ、加害者は謝りにも来ませんでした。これが、分譲マンションで家財の損害が大きかったら、加害者に対して怒り心頭であったと思います。

分譲マンションの場合には個人賠償責任保険は管理組合が契約者になり、マンション総合保険等でまとめて加入しているケースもあります。

まとめ

以上のように個人賠償責任保険について様々な角度から見てきました。これだけの使い出があって保険料は年間2,000円程度です。

通常は保険加入については検討という言葉を使うのでしょうが、家族の日常生活が破壊されるリスクを守ってくれて、この保険料です。

迷わず、加入されることをお勧めします、と言える稀有な保険商品です。

未加入の方は是非加入しましょう。