夫より妻の収入が多い家庭のリスクと備え
加藤 葉子

この記事の監修者

株式会社マイライフエフピー(女性とシングルマザーのお金の専門家®) 代表

加藤 葉子さん

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山田 琴江

この記事の執筆者

ファイナンシャルプランナー

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現在の家族形態として共働き世帯が増えたものの、夫が一家の大黒柱であることを前提として、万一のリスクや備えを語られることが多くあります。

しかし実際には、夫と妻の収入が同程度の場合や、妻の収入のほうが多いという家庭もあります。

妻が一家の大黒柱となる家庭では、どのようなリスクに備えておくことが必要でしょうか。

夫婦ともに会社員であり、妻の収入が夫の収入よりも多い家庭を想定し、リスクと対策をお伝えします。

覚えておこう2大リスク

妻の収入が減少するリスクとして、以下の2つがあります。

  • 出産、育児の場合
  • 妻が亡くなった場合

このリスクについて、一緒に見ていきましょう。

リスク1:出産・育児による収入減少

ライフプランを考えたときに、男性と女性で異なるのが「妊娠・出産」です。

産休・育休

働いている女性が妊娠すると、母体を守るために産前産後休業、いわゆる「産休」が労働基準法で定められています。

出産後は子どもを養育するために、最長で子どもが2歳になるまで育児休業(育休)を取ることができます。

注意

産休・育休期間中は会社には給与の支払いの義務はありません。

支給条件を満たしている場合には、健康保険から出産手当金、雇用保険から育児休業給付金が支給されますが、いずれの期間も出産前の収入より減ることは確実です。

実際、どのぐらいの手当てが出るのか表にまとめてみました。

出産手当金、育児休業給付金の支給額
名称 対象期間 支給額
出産手当金 出産前42日~
出産翌日以後56日
出産前12カ月の給与の3分の2
育児休業給付金 育児休業開始日から6カ月 休業開始時の賃金の67%
6カ月経過後復職するまで
(最長2歳になる前日まで)
休業開始時の賃金の50%

参考:全国健康保険協会および厚生労働省各ホームページより筆者作成

時短勤務の場合

育児休暇が明けると、今度は育児のための短時間勤務制度を利用する人も筆者の周りでは多いです。

会社にもよりますが、働く時間の減少に応じて収入が少なくなります。

リスク2:妻が亡くなった場合の遺族年金の差に注意!

家族が亡くなった際、遺族の生活を守るため「遺族年金」という制度があります。

遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2種類があります。

遺族基礎年金は、亡くなった人が国民年金に加入していれば、生計を維持されていた遺族に支給されます。

亡くなった人が厚生年金に加入している会社員・公務員であれば、遺族基礎年金に加え遺族厚生年金が支給されます。

それぞれに支給要件があり、配偶者が亡くなった場合、受け取るのが妻か夫かによって、下の図のように支給される遺族年金が違います。

配偶者が亡くなった場合に支給される遺族年金

出産手当金、育児休業給付金の支給額
受け取る人や条件 遺族基礎年金
(国民年金から)
遺族厚生年金
(厚生年金から)
受け取る人:妻 子どもあり 何歳でも 支給あり
原則として子どもが18歳になる年度末まで
支給あり
+中高齢寡婦加算
子どもなし 30歳未満 支給なし 支給あり
ただし5年間のみ
30歳以上 支給あり
+中高齢寡婦加算
受け取る人:夫 子どもあり 55歳以上 支給あり
原則として子どもが18歳になる年度末まで
支給あり
55歳未満 支給なし
子どもなし 55歳以上 支給なし 支給あり
ただし60歳から
55歳未満 支給なし

※子どもとは、18歳になる年度末を経過していない者。障害等級1級または2級の障害状態にある場合は20歳未満まで。
※中高齢寡婦加算とは、夫が亡くなったときに40歳~65歳未満で生計を同じくしている子どものいない妻、または、子どもが18歳になる年度末を迎えたなどのため、遺族基礎年金を受給できなくなった40歳~65歳未満の妻に対する加算。
参考:日本年金機構HPをもとに筆者作成

遺族基礎年金は夫と妻で差はなし

遺族基礎年金は、子どものいない配偶者には支給されません。

子どもがいる場合には、原則として子どもが18歳になる年の年度末まで年間78万100円に加え、子どもの人数に応じて支給額が変わります。

第1子と第2子に対しては年額で22万4,500円、第3子以降は1人につき年額7万4,800円が加算されます。(いずれも2019年度額)

遺族基礎年金は、夫と妻のどちらが亡くなったかでの支給金額に差はつきません。

遺族厚生年金は55歳未満の夫に支給がない!

遺族厚生年金は、亡くなった人の生前の収入などにより支給額が変わります。

生計を維持されていた妻は年齢に関係なく支給対象となりますが、夫は妻が亡くなったときに55歳未満だと支給対象とはなりません。

妻が亡くなった場合、妻の収入が多かった分だけ遺族厚生年金が子どもに支給される可能性はありますが、原則として18歳の年度末を迎えるまでとなります。

夫と妻の遺族年金の差はどれくらい?

共働きの家庭で夫が亡くなった場合と妻が亡くなった場合とで、どのくらい遺族年金に差があるのか、具体例で見ていきましょう。

今回のモデルケースでは、夫婦とも会社員で厚生年金に加入しているとします。

モデルケース:2020年3月末時点

  • 夫:40歳、年収300万円、会社員(厚生年金加入)
  • 妻:40歳、年収500万円、会社員(厚生年金加入)
  • 子ども:10歳(障害状態にはない)
    夫婦とも、20歳より国民年金保険料を納めており、2002年4月より厚生年金の被保険者。

夫が40歳で亡くなった場合

夫が亡くなった場合に、遺族が受け取る遺族年金は下の図のようになります。

夫が亡くなった場合の遺族年金

夫が亡くなった場合の遺族年金

※注1:仮に夫の収入が22歳~40歳まで年収300万円だった場合は約31万円。
参考:日本年金機構HPをもとに執筆者原案 編集部にて作成

夫が亡くなった場合、妻は受取人として終身で遺族厚生年金を受け取れます。

遺族厚生年金に加え、40歳~48歳までは遺族基礎年金として年間約100万円、48歳~64歳までは中高齢寡婦加算で年間約58万円という遺族厚生年金からの給付を受け取る可能性があります。

つまり、妻自身の老齢年金を受け取るまで、何かしらの遺族年金を受けることができます。

妻が40歳で亡くなった場合

妻が亡くなった場合に遺族が受け取れる遺族年金はどうなるかというと、下図のようになります。

妻が亡くなった場合の遺族年金

妻が亡くなった場合の遺族年金

※注2:仮に妻の収入が22歳~40歳まで年収500万円だった場合は年間約52万円。
参考:日本年金機構HPをもとに執筆者原案 編集部にて作成

妻が亡くなった場合、子どもが18歳の年度末を迎えるまで、つまり夫が40歳~48歳までは、夫が遺族基礎年金として年間約100万円、子どもが遺族厚生年金を受け取れます。

しかし、その後の期間は遺族年金がありません。

ここで注目してほしいのは、妻が亡くなった場合、子どもの教育費がまだかかる大学生の時に、遺族年金の支給がなくなってしまうという点です。

具体的な4つの対策

今まで妻の収入が減少する2つのリスクを見てきましたが、このようなリスクに対して、どのように備えをしておくべきでしょうか。

  1. 最低限の生活費を把握しておく
  2. 夫が育休を取得する
  3. 住宅ローンは妻が組む
  4. 子どもの大学の費用に備える

詳しく説明していきます。

最低限の生活費を把握しておく

共働きの場合、どうしても生活費が多くなりがちです。収入が減った場合には、それに見合った生活水準に抑えることが必要となります。

このため、どの程度収入があれば毎月の生活ができるのか、最低限の生活費を把握しておくといいでしょう。

例えば、お総菜を頻繁に買っている場合には、今はお惣菜を週何回利用し、一回あたりいくらなのかを把握しておく。

外食が多いのであれば、一回当たりの外食費や月の利用回数を把握しておくだけでもいいでしょう。

夫が育休を取得する

育児休業は、女性でも男性でも取得することができます。もちろん、雇用保険に入っており要件を満たす場合は、育児休業給付金も支給されます。

このため、例えば妻の育児休業期間を6カ月にして、その後は夫が育児休業を取得するなど工夫すれば、世帯単位で見た場合の収入減少額を軽減することができます。

共働きを続ける予定であれば、夫でも妻でも家事や育児ができるようにしておくことをおすすめします。

住宅ローンは妻が組む

住宅を購入する場合は、収入が多い妻が住宅ローンを組みましょう。

妻の収入が多い家庭での一番のリスクは、妻が亡くなった場合です。住宅ローンを組む際は団体信用保険へ加入するため、万が一、妻が亡くなった場合には住宅ローンの返済が免除されます。

仮に、夫が住宅ローンを借り入れて夫婦で返済していた場合、収入の多い妻が亡くなっても住宅ローンの返済額はそのままなので、遺族の生活が圧迫されます。

子どもの大学の費用に備える

教育費は、支出する時期をずらすことができず、かつ、子どもの意向もあるため、急に減らすことが難しい支出です。

このため、子どもが小さいうちから教育費を貯めていくことが重要ですが、加えて、妻の収入が多い家庭では、追加で対策をしておきましょう。

学資保険に加入されるなら、収入が多い妻を主契約者とすることをおすすめします。

妻に万一のことがあった場合に保険料の払い込みは免除になりますが、学資金は予定通り受け取ることができます。

収入の多いほうが主契約者となることで、税務メリットを多く受けることもできます。

また、夫が55歳になる前に妻が亡くなった場合、子どもが18歳となった年度以降は、遺族に遺族年金が支給されません。

よって、学資保険は大学在学中での学資金受け取りを重視したプランにしておいてもいいですね。

まとめ:早めの対策で安心を

今回あげたリスクは、共働きで夫婦それぞれの収入があるからこそ、見て見ぬふりをしている家庭も多いのではないでしょうか。

リスクがあっても、リスクを理解してライフプランを立てておけば、備えられるものです。

この記事をきっかけに、いざという時に困らないようご家庭で話し合ってみてはいかがでしょうか。

加藤葉子

ファイナンシャルプランナー(AFP認定者)

監修者 加藤 葉子の一言コメント!

コメント

共働き世帯の妻が亡くなった場合の遺族年金は、夫が亡くなった場合よりも少なくなってしまう可能性があり、家計のダメージも大きくなりますね。
遺族年金の制度を正しく理解することと合わせて、「教育費」「生活費」「住居費」について計算して、必要に応じて生命保険等の死亡保険金をどうするか?などご夫婦で話し合ってください。