
2017年1月より、ほぼすべての現役世代が利用できるようになったiDeCo(個人型確定拠出年金)には、3つの税制優遇のメリットがあることはご存知のかたも多いでしょう。
- 税制優遇の3つのメリット
- 1.掛金全額が所得控除
- 2.運用時の運用益が非課税
- 3.受取時に所得控除がある
というものです。
3つのメリット中で注意したいのは、3.受取時の所得控除です。
iDeCo は60歳までお金をおろせないので、長い道のりの終着点を見据えながら運用していくことは大切です。
受取時も必ず非課税になると勘違いしてしまうと、運用時の運用商品やその売買時期の判断を誤る可能性があり、後悔しても後の祭りになってしまうからです。
今回はそんなiDeCoの勘違いしがちな注意点について解説致します。
iDeCoの受け取り方は3通り:一時金・年金・一時金と年金
お金の受け取り方は、一時金、年金、その両方(一時金と年金)の3通りあります。
どれを選ぶかは自由に決められ、どれを選んだら税金的に一番得なのかは、その人の退職金や年金の受け取り方や金額などにより大きくかわってきます。その正しい知識こそが、iDeCoでの資産形成の成功のカギかもしれません。
どの受け取り方をしても、税金の控除があるという点は同じです。ただ、使用する控除の枠と金額が異なります。
受取方法 | 使用する所得控除 | 控除額の特徴 |
---|---|---|
①一時金 | 退職所得控除 | 運用年数により異なる |
②年金 | 公的年金控除 | 65歳未満と65歳以上、年金以外の収入の有無、等で異なる |
③一時金と年金 | ①・②それぞれの控除 | ①・②それぞれの控除金額 |
「受取時にも税制優遇がある」からといって非課税になるとは限らない!
注意しなければならないのは、控除額には上限があるということです。
つまり、控除の上限額までは非課税ですが、控除額を越えると、その越えた部分については課税されます。
では、この控除額とは一体いくらなのでしょうか?
①一時金でもらう時の退職所得控除
iDeCo以外に退職金や一時金がないケース
iDeCoを一時金でもらう際は、退職所得控除枠をすべてiDeCoの一時金の受け取りに使用することができます。
退職所得控除額の計算方法は、以下の通りです。
勤続年数又は運用年数※ (1年未満は切り上げ) |
退職所得控除額の計算式 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数又は運用年数※ (80万円に満たない場合は、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(運用年数-20年) |
※:運用年数は、掛金を支払った年数
例えば、iDeCoへ掛金を拠出・運用をし続けて、10年後に一時金として受け取る場合、
40万円×10年=400万円
が「退職所得控除額」になります。
もし、iDeCoの一時金が400万円以下であれば非課税です。400万円を越えると、その超えた部分が課税されます。
課税される退職所得額:(退職金・一時金の受取り額 - 退職所得控除額)×1/2
上記の例でiDeCo一時金500万円を受け取ると仮定します。400万円の非課税額をこえた部分は、課税されます。
退職所得は、一時金から退職所得控除額を引いたものに2分の1を掛けますので、
(500万円-400万円)×1/2=50万円
上記の例でいえば50万円が「退職所得」として課税対象になります。
その50万円に対して国税庁の速算表で計算をすると、復興特別所得税を含む所得税は、
約2万6千円+住民税(一律10%)は5万円になります。
(合計約7万6千円)
※引用:国税庁退職所得の源泉徴収税額の速算表
iDeCo以外にも退職金や一時金があるケース
会社員の方で会社の退職金がある、また個人事業主や自営業の方で小規模企業共済などの一時金をもらう場合は、それらと合わせて退職所得控除の枠を利用することになります。
退職金・一時金を2カ所以上から同じ年にもらう場合
勤続(運用)年数のうち、「最も長い期間」を勤続(運用)年数として退職所得控除額を算出します。
ただし、「最も長い勤続期間」以外の期間のうち、「最も長い勤続期間」と重複しない勤続期間がある場合は、その重複しない勤続期間も「最も長い勤続期間」に加算して勤続年数を計算します。
例えば、以下2つがある場合は
- 退職金:400万円、勤続年数15年
- iDeCo一時金:250万円、運用期間10年(会社勤務期間と重複)
退職所得控除額:40万円×15年(最も長い期間)=600万円
課税退職所得:
{(退職金400万円+iDeCo一時金250万円)-退職所得控除600万円}×1/2=25万円
となります。
前年以前に既に支払われた退職金・一時金がある場合
- 既に支払われた退職金・一時金の勤続期間を通算して計算する
- 前年以前4年間(確定拠出年金は前年以前14年間)に既に支払われた退職金・一時金がある
上記のケースでは、前回と重複する期間の年数(1年未満の端数切り捨て)分の退職所得控除相当額を引いた残額が今回利用できる退職所得控除額となります。
つまり、控除できる金額は勤続(運用)年数が長いほど大きくなりますが、一度利用すると再度利用する際には、一回目に利用した分を差し引いて残りがあれば利用できるという仕組みになっています。
②年金でもらう時の公的年金控除
65歳未満と65歳以上では、計算式が異なります。また令和2年分以降は、年金以外の所得がある人とそうでない人とも、控除額が異なります 。
※画像引用:国税庁「公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)」より
例えば、年金以外の所得がないケースでは、65歳未満では、1年間60万円までの年金収入であれば、公的年金控除を使うと所得がゼロになり、非課税になります。
一方65歳以上では、1年間110万円までの年金収入であれば、公的年金控除を使うと所得がゼロになり、非課税になります。
公的年金(国民年金・厚生年金)に加えて、iDeCoの受け取りに年金を選択すると、同じ「公的年金控除枠」を使うことになります。
一般に65歳から公的年金を受け取るので、それ以前の60歳~65歳まで1年に60万円の公的年金控除を利用して、iDeCoを年金で受けとれば、5年間で300万円までは非課税で受け取れます。
一方で、65歳以上で公的年金に加えてiDeCoを年金で受け取ると、公的年金控除額を越える場合は増税になってしまう可能性もあります。
一時金、年金、いずれにしても、それぞれの控除枠はiDeCo専用ではないので、他にも受け取る見込みのある場合は、iDeCoを受け取ることで、受け取らない場合に比べて増税になる可能性があることに注意が必要です。
一時金・年金、それぞれのメリット・デメリット
それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。
1.一時金
- メリット
- 退職所得は退職所得控除を引いて更に1/2になるので、課税所得が少なくなる可能性が大きい
- 住宅ローンの繰上げ返済など、まとまったお金が必要なものに充当できる
- デメリット
- 受け取り後は自分で運用や管理をしなければならず、使い込んでしまう恐れがある
- 別途退職金などがもらえる場合は、退職所得控除額を越えると課税所得が増える
2.年金
- メリット
- 60歳から65歳まで、公的年金を受給する前に年金として受け取れば、60歳からの公的年金控除枠を有効に活用できる
- 一年あたりに受け取る金額は一時金より少ないので、管理がしやすい
- 受取金額の合計は、一時金で受け取るよりも多い場合がある
- デメリット
- 毎年の課税所得が増えると、所得をベースに決定される社会保険料(国民健康保険・介護保険)の負担も増える
- 公的年金と合わせた金額が公的年金控除額を超えると課税所得が増える
受取時も課税なら、税金の支払いを繰り延べしているだけ!
iDeCo内で元本保証の定期預金などに置いているだけでは、毎月の口座管理手数料の方が高く、元本割れしてしまうでしょう。
しかし、掛金の全額が所得控除になるから、運用自体は元本割れしても、節税分とトータルすればプラスになる、と思っているかもしれません。
運用を終えていよいよ受け取る時に「退職所得控除」や「公的年金控除」の金額を超えて受け取ると、結局は税金を支払うことになり、単に税金の支払いを先送りしているだけになります。
ただ、ほとんどの人は、リタイア後に比べて現役時代の方が所得も多く、所得税率は高いことが想定されます。一般に、iDeCoで現役時代に支払わずに済む税額の方が、リタイア後に支払う税額よりも多くなる可能性は高いでしょう。
ここで、もう一つ注意しなければいけないのは、「掛金の全額が所得控除」という意味です。
掛金と同額の税金を払わないですむと思ってはいませんか。例えば、掛金月2万円の人は、年間24万円の所得税を支払わないですむ、と考えるのは誤りです。
正しくは、掛金に「所得税率を掛けた金額の税金」が安くなります。
前述の例では、1年分の掛金24万円に対して、例えば所得税率が10%の人は、2万4千円の税金が安くなります。
まとめ
iDeCoは税制優遇の利用で、老後資金を効率よく準備できるツールですが、50代に入ったら、受け取り時の戦略をある程度立ててみるとよいでしょう 。
※筆者資料をもとに編集部作成
そのためには、退職金の有無、退職所得控除の控除額、公的年金の金額などを把握することが重要です。
人によっては、受け取り時期と金額を分散することで非課税の枠内に収まる可能性もあります。退職金や公的年金がもともと多い人は要注意です。
受け取りは60歳以降70歳までの間で選ぶことができ、70歳まで運用益に対しては非課税で運用を続けることができます。
一番税金を払わないですむ方法を考えるのもよいですが、自分のライフプランや健康寿命に照らして、いつお金をどのように使いたいかも合わせて考えることも大切でしょう。