あなたは相続に関わったことがありますか?
人が一生のうち、相続に関わるのはおそらく数回しかないでしょう。
相続の手続きは、多くの書類を準備したり、相続人同士で話し合いを行ったりと、いろいろと手間がかかります。
また兄弟で仲が悪いので、話し合いもできないといったケースもあるかもしれません。
いろいろと面倒な作業が発生するあまりに、相続の手続きをしないままにしておきたいという人がいらっしゃるかもしれません。
もしも、相続の手続きをしないままにしたらどうなってしまうのでしょうか?
相続手続きの概要
まずは相続の手続きについて確認してみましょう。
相続手続きの大まかな流れ
- 被相続人の「生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」を集める
- 相続人を確定する
- 相続財産の確認
- 遺産分割協議を行う
- 協議で決まった内容の手続きを行う
それぞれの流れについて説明していきます。
相続人の「生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」を集める
亡くなった方を被相続人、相続をする人を相続人と呼びます。
- 被相続人=亡くなった人
- 相続人=相続を受ける人
まずは被相続人の「生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」を集めることからはじめます。
生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を集めることで、相続人を確定します。
家族には知らされていなかった兄弟や子供などの存在がわかることもあります。
次に、相続人を確定する手順へと移ります。
相続人を確定する
誰が相続人になるかは法律で決められています。
配偶者(夫や妻)は常に相続人になります(民法890条)。
第一順位 |
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子 子がすでに亡くなっていれば、子の子、子の子も亡くなっていれば、子の孫と順次相続権を引き継ぎます。これを代襲相続といいます。(民法887条) |
第二順位 |
父親・母親 父親、母親が亡くなっていれば、祖父母となります。 (民法889条) |
第三順位 |
兄弟姉妹 (兄弟姉妹はその子のみ代襲相続ができます。) (民法889条) |
上記の順番で相続人となります。
上の順位の者が相続人になると、下位の順位の者は相続人となることができません。
例えば、「第二順位」である「父親・母親」が相続となった場合、「第三順位」である「兄弟姉妹」は相続を受けることができません。
相続財産の確認
相続人が確定したあとは、相続財産の確認となります。
被相続人と生前、一緒に住んでいる人がいれば、相続財産の把握は比較的しやすいのですが、被相続人が一人住まいの場合には、困難となる場合があります。
どの銀行口座を使っていたかなどを把握するには、通帳や郵便物をチェックして、預金やローンのある銀行や取引のある証券会社などを探していきます。
カード会社は取引明細書などを見て調査します。
また固定資産税の通知を調べることで、土地や建物を保有していたかどうかも分かります。
遺産分割協議を行う
相続人と相続財産が確定できたら、遺産分割協議に入ります。
亡くなった人の相続財産の分け方について、相続人全員で協議してまとめることをいい、その結果を文書にしたものを遺産分割協議書と呼びます。協議がまとまらないと相続の手続きに入れないことになります。
また協議がまとまったとしても、手続きを怠ると名義変更などが完了しないまま、放置されることになります。
相続の手続きをしないとどうなるのか?
手続きをしないまま相続財産を放置しておくとどうなってしまうのでしょうか?
財産の種類ごとに、どんなことが起きるのか見ていきます。
年金の不正受給になる可能性がある
年金を受け取っている人が亡くなった場合には、「年金受給権者死亡届」というものを年金事務所に提出する必要があります。
ただし日本年金機構に個人番号(マイナンバー)が収録されている人は、原則として、死亡届の提出を省略できます。
死亡届の提出が必要な場合、国民年金は死亡日から14日以内、厚生年金は10日以内に提出しなければなりません。
これを長期間放置しておくと、年金の不正受給となります。
国民年金法111条では、年金の不正受給をすると3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処する
と規定されています。
あわせて受給した年金もすべて返還要求がされますので、注意が必要です。
銀行預金は民間公益活動に活用される
銀行へ預金している人が亡くなると、口座が凍結されるという話を聞いたことがあると思いますが、地方で明らかにこの人が亡くなったと確認できる場合を除けば、金融機関が勝手に預金口座を凍結することはありません。
遺族等から死亡届が出されて、はじめて口座は凍結されます。
銀行預金などは、法律上は債権の扱いになります。
一般的な債権は10年経つと時効で消滅(消滅時効)しますが、通常、銀行預金は10年経っても消滅しません。
しかしながら、2019年1月より休眠預金等活用法というものが施行され、2009年1月以降に取引があって、それ以降10年間取引のない預金については、民間公益活動に活用されることになりました。
民間公益活動に活用された預金であっても、正式な手続きを踏めば、引き出すことはできますが、放っておくと手続きが増えるので気をつけましょう。
2019年7月1日からは各相続人は1金融機関ごとに自分の法定相続分の3分の1もしくは150万円のどちらか大きい金額を上限に、引き出すことができるようになりました。
※参考:全国銀行協会遺産分割前相続預金の払戻し制度
これにより、遺産分割協議が整わなくても、ある程度の金額を金融機関から引き出すことができます。
証券口座は放っておくと配当金をもらえなくなる
証券会社の口座で保有していた株や投資信託などは、どうなるのでしょうか?
株や投資信託は預金と違って所有権となります。
所有権の場合は消滅時効がありませんので、放置しても権利は変動しません。
しかし値上がりしても、売却はできないので早めの手続きをしましょう。
一方で配当金や分配金については、消滅時効があります。
会社等により異なりますが短くて3年、最長でも10年で消滅時効となりますので、放っておくと配当金等をもらう権利がなくなります。
住宅ローン等の借金などは引き受けることになる
住宅ローンの場合には、団体信用生命保険(団信)をかけていることが多いので、被相続人が死亡した場合には、届け出をすることで、ローンの支払いがなくなります。
したがって手続きをしない可能性は低いと考えられます。
しかし被相続人が事業などを行っていると、事業用のローンを組んでいることが多いでしょう。
相続においては、預金などのプラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産(債務)も相続することになります。
相続財産に債務が多い場合などには、相続を放棄すること(相続放棄)ができます。
相続放棄の手続きは、被相続人の死亡もしくは相続があることを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に届出する必要があります。
3カ月を過ぎると債務も含めて相続財産をすべて引き受けるという単純承認とみなされるので、忘れずに手続きしなければなりません。
クレジットカードは止めないと引き落とされ続ける
クレジットカードの残高も債務となります。
もし引き落としの銀行口座がそのままであれば、カードを止めない限り、年会費や継続購入などをしている商品の代金や施設の利用代金、リボ払いの残金も引き落とされ続けるので、早めに対処しましょう。
不動産は名義を変えないと売買できなくなる
相続で手続きされずに放置されるものとして一番多いのが不動産になります。
現在は、相続があったとしても、名義の変更は義務ではありませんので、手続きをしなくても特に問題にはなりません。
しかし2020年の秋には法律の改正が予定されており、相続の場合でも名義の変更が必要※となるでしょう。
不動産の名義を変えずにそのままにしておいた場合の一番の難点は、売買ができなくなるということです。
いざ売買をしようと思っても、亡くなった人の名義のままでは売買はできません。
名義をしかるべき相続人に変えてから売買を行うことになります。
亡くなった人が所有していた不動産の名義を変更する場合には、「遺産分割協議書」を添付する必要があります。
遺産分割協議書には、相続人全員の署名、押印が必要となります。
一般に相続の手続きをせずにそのままにしておく原因の一つには、相続人同士の仲が悪かったりして、遺産分割協議が整わず、相続人の全員の署名、押印ができないことがあります。
しかし、そのまま放置していると、次には相続人が亡くなってしまって、代襲相続が起こることもあります。
親戚でもいとこまでなら顔を合わせたこともあるかもしれませんが、いとこの子となると、ほとんど知らない場合がほとんどでしょう。
ましてやどこに住んでいるかさえも、定かではない可能性も出てきます。
つまり不動産の場合は、放置しておく時間が長ければ長くなるほど、相続人の数が増えたり、住んでいる場所も分散したりしてしまうので、手続きが困難になっていきます。
早めの対処をするようにしてください。
※参考:法務省「未来につなぐ相続登記」
まとめ
相続の手続きをしないとどうなるかについて、お分かりいただけましたでしょうか?
そのままにしてはいけないのは、相続財産が負の状態、すなわち借金が多い場合です。
相続の放棄は、被相続人が亡くなったとき、もしくは相続のあることを知った時から3カ月以内ですので、遅れないように手続きしましょう。
そのほかの場合には、手続きをしなくても現状では、罰則を受けることはありません。
ただし放置する期間が長くなるほど、手続きは複雑になっていきます。
自分の子供や孫に迷惑をかけないように、相続の手続きはしっかりやっておきましょう。