親子で取り組んでみよう!はじめての投資
田端 沙織

この記事の執筆者

ファイナンシャルプランナー

田端 沙織さん

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2019年6月に、金融審議会「市場ワーキング・グループ」が「年金以外の老後資金として1,300万円から2,000万円が必要」とする報告書をまとめました。

その内容から、「老後資金2000万円不足問題」として大きな話題になりましたね。

ニュースを聞いて、自分も投資を始めて老後に備えなければいけないのではないか・・・と思った人も多いかと思います。

しかし、安全に投資をはじめるには、事前に基本的な金融知識を知っておく必要があります。

今回は大人だけでなく、小さい頃からはじめる投資を含めた金融教育と親子で取り組む投資について解説します。

なぜ投資をするのか

人生100年時代と言われる昨今、政府の施策だけに頼らない自助努力の必要性は年々高まるばかりです。

2020年の所得税の改正でも、年収850万円超で子育て世代でない人は実質増税になり、給与の手取り額が減ります。

社会制度や会社の在り方、働き方などの社会情勢が変化するスピードは年々速くなっており、既存の政策や年金制度が実情に追い付かなくなっているのが現状です。

また、終身雇用制度を採用する企業も今後は減少が予想されます。

世の中の変化に対応するには、労働収入だけに頼る生活設計では不安が残ります。

そこで、労働収入以外のもう1つの収入として、「投資」が注目され始めました。

働いて「稼ぐ」にプラスして、投資でお金に「働いてもらう」

自分で働いて稼ぐ「労働収入」だけが、収入を得る方法ではありません。

株式や債券などに投資をすることにより、投資商品の売買による利益を得ることができます。

また、株式への投資であれば配当金や株主優待といった、売買利益以外の利益を得ることもできます。

こういった投資商品の、売買で得られた差額利益を「キャピタルゲイン」、配当金など、持っていることで定期的または不定期的に得られる収入を「インカムゲイン」といいます。

労働収入だけに頼っていると、給与や事業収入の減少が生活資金の不足に直結します。

そんな時に、投資や副業といった別の収入があると、金銭的にも精神的にも気持ちが楽になるのではないでしょうか。

株式投資の本質

「株式投資」という言葉で思い浮かぶイメージは、複数並ぶパソコンの画面の前で忙しく株取引をする人の姿かもしれません。

しかし、そのような取引をしている人はほんの一握りです。

買った株がいくらで売れるか、だけを考えるのは「投資」ではなく「投機」になります。

本来の株式投資とは、企業の価値を見極めてその一部を保有し、その企業が商品やサービスを通じて提供した「価値」に対してあげた利益を、持ち分に応じて配当金などとして還元を受けるものになります。

アメリカのバークシャー・ハサウェイ会長であり、世界的な投資家でもあるウォーレン・バフェット氏も「株券ではなく、事業を買う」という名言を残しています。

投資対象を正しく選択するためには、自分で積極的に行動を

投資で大切なことは、自分が投資する対象を正しく理解し、正しく選択することです。

自分がよく分からないものに投資をするのが、一番危険です。
理解していないということは、その投資商品によって得られるリターンや、もたらされるリスクがあらかじめ予想できないからです。

投資する場合は、投資に関する書籍などを読んだり、正しい知識を伝えてくれる人のセミナーに参加したりして、基本的な金融知識を身に付けましょう。

長期投資の有効性

基本的な金融知識や投資商品についての理解を深めた後は、投資を行う期間についても考える必要があります。

一般的に、多額の金額を短期間で投資を行うより、少額でも長期間同じ金融商品に投資し続ける方が損をしにくいといわれています。

金融庁ホームページ「投資の基礎知識」のページに、長期投資の有効性と複利効果について以下のように記載があります。

「投資には、中長期的に行っていくことで、投資資金を運用して得られた利益がさらに増えていく「複利」の効果があります。「投資期間」と「複利」の効果には関係があり、投資期間が長いほど、複利効果も大きくなる傾向があります。また投資期間が長いことで、投資による価格変動リスクが小さくなり、安定した収益が期待できます。」(金融庁ホームページ「投資の基礎知識」より一部引用)

このように投資期間を長くとることにより、価格変動によるリスクの振れ幅を小さくでき、複利効果は大きくなる可能性が高まります。

機関投資家と呼ばれる投資のプロは決算があるため、どうしても短期で売買しなければいけません。

しかし、個人投資家には機関投資家のように期限があるわけではないので、長期で投資が可能になります。
投資期間を長期でとれる利点を最大限有効に使っていきましょう。

複利の効果

複利とは

簡単に説明すると「元本だけでなく、利子にもまた利子がつくこと」です。

たとえば、現金100万円を預金して金利が1.0%(年利)つくと仮定します。

1年間預金をした場合、元本100万円に対し利子が1万円つくため、1年後の預金は101万円になります。

そこからさらに1年間預金をした場合は、どのようになるでしょうか?

「単利」という「元本に対してのみ利子が付く」方式の場合は、最初に預けた100万円に対して金利1.0%の利子(1万円)がつくため、1年目の利子と合わせ2万円の利子が付いたことになります。

複利の場合は、

  • 1年目の利息:100万円×0.01=1万円
  • 2年目の利息:101万円×0.01=2万100円

という計算結果のとおり、2年目は1年目の利子である1万円も含めた101万円に対し金利1.0%がつき、元本と利子を合わせて102万100円になります。

このように、単利よりも複利の方が時間の経過につれて付く利子がどんどん増えていくため、その増え方から「雪だるま」に例えられることも多いです。

預金や投資を複利運用できれば、資産の増えるペースが上がります。

長期積立投資をするとどうなるか

投資には一度に資金を投入するだけでなく、定期的に一定の金額を投資していく「積立投資」という方法もあります。

積立で投資を行う場合も、投資の期間が長くとれるほど複利効果が大きくなり、価格リスクの振れ幅の影響が少なくなります。

長期積立投資の一例を出してみましょう。

年率3.0%の利益が想定される、全世界の株式を対象とした株価指数に連動する投資信託へ、20年間毎月3,000円積立投資した場合、以下のようなシミュレーション結果となります。

金融庁HP 資産運用シミュレーション

(金融庁HP「資産運用シミュレーション」で計算)

このように、毎月3,000円と少額ながらも20年間投資し続けることで、元本と運用収益合わせて「984,906円」にも増やすことができます。

これは、国立大学の入学金と初年度授業料の合計(82万円相当)を賄える金額です。

国立大学等の授業料その他の費用に関する省令 国立大学の標準額(国が省令で定めた額)昼間部2016年4月1日施行より抜粋)

親子で一緒に投資に取り組み、より深い学びへ

日本における若年時からの、将来に備えた資産形成の重要性が高まっています。

2022年から施行される新学習指導要領では、資産形成指導の一環として「投資信託」に関する高校家庭科の授業が行われる予定です。

しかし、学校で投資について学べるのはほんの数時間です。

お金や資産運用の大切さをきちんと身につけるには、家庭での日常的なお金の教育が大事になります。

子供だけでなく、親も一緒に勉強しながら投資に取り組むと、より深い学びになります。

子供は親のしていることに興味を持ち、その行動をよく見ています。

「子は親の背中を見て育つ」と昔から言われていますが、特に親のお金の使い方やお金との関わり方は、子供にとっての「普通」になります。

そのため、常に子供に見られているという認識を持つことも大切です。

そして、子供の頃から貯金だけでなく「投資」という選択肢があることに気付けると、投資を通じて経済やビジネスに興味を持ち、ビジネスをどう見るかという視点も養うことができます。

これらは、子供の将来の職業や会社選びの視野を広げる事にも役立ちます。

家庭内での親子の会話の中で、折に触れて経済や商品・サービスなどについて話し合う機会があれば、親子で取り組む投資にとってもプラスになるのではないでしょうか。

まずは投資を始めてみよう

シミュレーション結果をみても分かる通り、少額でも長期で積立投資を継続して行うことが、資産形成において有利であることが見て取れます。

しかし、いくらシミュレーションしても実際に投資を始めないと何も変わりません。
少額でもよいので、まずはスタートすることが大切ではないでしょうか。

子供であれば、お年玉やおこづかいの一部を、将来の自分のために積立投資に回すのも良いと思います。

自分のお金で投資をすることにより、より自分事として興味をもって取り組めるのではないでしょうか。

自己投資も大事

金融商品への投資だけでなく、自己投資も大事な投資になります。

子供であれば、勉強やいろいろな人とのコミュニケーション、経験を通じてたくさんの学びが自己投資になるでしょう。

大人も仕事をする上での研鑽や、心身の健康への投資が将来の大きな財産となります。

ぜひ、自分に対する投資も忘れずに行いましょう。

楽をしてすぐには儲からない

このように、投資とは一攫千金を狙うものでも、短期的な金融商品の売買で利益を出すだけのものではありません。
基本的には「楽をしてすぐには儲からない」のです。

逆に、楽をしてすぐに儲けようとしてもなかなか儲からないのが現実です。
投資に限らず「楽をしてすぐに儲かる」と謳っているのは、悪質な勧誘だけではないでしょうか。

独立行政法人 国民生活センターには「詐欺的な投資勧誘トラブル」の相談が多く発生しており、特に若年層の間で、SNSを介して知り合った人からの「投資話」でトラブルが多発しているそうです。

詳しくは、独立行政法人国民生活センターの「詐欺的な投資勧誘トラブル」のページをご参照下さい。

こういったトラブルも、「投資」について正しく理解をしていれば避けることができます。

親子共々、常日頃からお金や投資について話し合い、実践していくことがますます大切になっていくのではないでしょうか。

まとめ

「人生100年時代」といわれ始めた昨今、老後資金がどのくらい必要か、どう準備すればよいのかに関心が集まっています。

それと同時に、労働だけで収入を得るのではなく、お金にも働いてもらう「投資」にも大きな注目が集まっています。

「投資」を安全に続けていくには、正しいお金と投資の知識を身に付ける必要があります。

投資対象を正しく理解し選択した後は、長期積立投資の有効性と複利効果を最大限に活かしていくことが重要です。

長期積立投資は、大人だけでなく子供が行っても有効な投資手段です。

お小遣いの中から毎月少額を積み立てながら投資を行い、少しずつお金を増やしていく。

投資を通じてお金が増えていくことを実感しながら、学校ではなかなか教えてもらう機会の少ない「お金や投資ついての知識」を、親子で一緒に身につけていくことは子供にとって非常に大きな学びとなるのではないでしょうか。

積立投資の有効性はすぐに実感できるものではなく、また楽をしてすぐに儲かるわけではありません。

毎月積立をする仕組みを作った後は、相場の上がった時も下がった時も慌てることなく、淡々と積立を継続していくことが大事です。

最低でも5年以上、できれば10年以上積立を継続していけば、
「あの時、積立投資をスタートしてよかった」と過去の自分に感謝したくなる結果が見えてくるのではないでしょうか。

そのことを念頭におきながら、長期投資への第一歩を親子で踏み出していただけたら嬉しいです。