現在日本では、寄付(=善意の気持ちを持って行った行為)に対しては、税制上の特例を受けることが出来るとされています。
寄付の対象は「国」「地方公共団体」もしくは「認定されたNPO法人」などと決められております。
また、寄付をすれば必ず所得控除や税額控除を受けることができるというわけではありません。
例えば、特定の個人や団体に対してのみにしかその寄付の効果が及ばない場合は、控除の対象外となることに注意が必要です。
では、
- 「どんな寄付を行った場合に、寄付金控除を受けることが出来るのか」
- 「その対象や、控除の申告に必要な手続きや書類」
- 「所得控除と税額控除の違い」
についても解説していきたいと思います。
所得控除とは?
「同等の経済状況下に置かれている人であれば、同等の税金を負担するべきである」という、課税の『公平』の原則の基、所得控除とは「一定の基準に応じて税金の負担が軽減される制度」の事です。
一定の基準には様々なものがあります。例えば、
- 養う家族がいる人や独身の方。あるいは健康な人なのか
- 身体に障害を持っているハンディキャッパーなのか
また、養う家族の中でも収入がない人もいれば、ある程度自立して収入を得ている人もいるでしょう。
そのような人それぞれの状況に応じて税負担を考えてくれる控除制度が、「所得控除」です。
現在、所得控除には14の種類があります。
種類の多さから、すべての控除の内容を正しく理解している人は少ないと思われますので、それぞれの控除の内容について説明していきます。
人的控除
所得控除における「人的控除」とは、本人や家族構成などを考慮したものを指します。そしてこの人的控除に該当する所得控除は以下のとおりです。
②基礎控除
全ての納税者に対し、所得金額から一定の割合で控除されるもので、現時点では所得に対して一律38万円が控除されています。
ただし、来年の2020年からは48万円まで増額される予定となっています。
ここで注意していただきたいのは、給与所得が103万円以下の場合です。
給与所得が103万円以下の場合は、そこから給与所得控除(後に詳しく解説します)が65万円引かれることになります。
さらに、基礎控除を38万円引くと課税対象額は0円となり、結果的に給与所得が103万円以下の場合は、所得税がかからないということになります。
②配偶者控除
配偶者控除については、配偶者特別控除と共にこれまでもかなり改正がなされています。
今後も改正は続くと思われますので、配偶者控除および配偶者特別控除の詳細には気を付けておくようにしましょう。
現時点で配偶者控除の対象となる人は以下の要件を満たした人となります。この場合の配偶者の定義ですが、「夫が働き、妻が主婦の場合」だけでなく、逆のパターン、つまり「妻が働き、夫が主夫の場合」でも対象となります。
- 婚姻届けを提出している配偶者であること(内縁関係は対象外)
- 納税者と生計を一にしていること
- 年間の合計所得金額が38万円以下であること(もしも、該当配偶者が給与収入のみである場合は、給与収入が103万円以下であること。また、2020年からは合計所得金額が48万円以下であること)
- 青色申告者の事業専従者として税務署に申告しているが、その年1年間を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと
- 白色申告者の専業専従者でないこと
配偶者控除の金額は38万円です。ただし、70歳以上の老人配偶者の場合は48万円となりますので注意してください。
③配偶者特別控除
上で配偶者控除について解説させていただきましたが、配偶者の収入が38万円以上の場合は配偶者控除を受けることは出来ません。
配偶者特別控除を受けることが出来るのは、
- 控除を受ける人の年収が1,000万円以下であること
- 婚姻届けを提出している配偶者であること(内縁関係は対象外)
- 納税者と生計を一にしていること
- 配偶者の所得が38万円を超え、かつ123万円以下である(2020年からは48万円超、133万円以下である)こと
- 青色申告者の事業専従者として税務署に申告しているが、その年1年間を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと
- 白色申告者の専業専従者でないこと
- 配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと
上の(7)については2020年から次のとおりになります。
- イ. 配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと
- ロ .配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていない(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除く)こと
- ハ. 配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていない(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除く)こと
という要件を満たしている場合、所得に応じて最大38万円までの配偶者特別控除を受けることができます。
控除額については配偶者の合計所得金額について変わってきます。具体的な控除額については以下の表を参考にしてください。
(出典:国税庁HP)
④扶養控除
扶養控除に該当する人とは、「控除を受ける年の12月31日時点での年齢が16歳以上の人で、かつ配偶者以外の親族」です。
この親族とは「6親等内の血族および3親等内の姻族」と指します。また、配偶者控除と同様、年間の所得合計が38万円以下であることが要件となっています。
控除の金額については年齢によって異なることにも注意してください。
⑤寡婦(寡夫)控除
この控除は、「配偶者が死別もしくは離別等によりいなくなり、かつ、扶養すべき子供がいる」場合に適用されます。
扶養すべき子供の総所得が38万円以下で、かつ、他の人の扶養にはいっていないことが要件となりますが、納税者本人の所得金額が合計500万円以下の場合であれば、所得に対して27万円の控除を受けることが可能です。
⑥障害者控除
扶養家族が障害者の認定を受けていることが要件となります。一般の障害者であれば27万円。
特別障害者に該当するのであれば40万円が控除されます。
⑦勤労学生控除
中学校、高校、大学もしくは専門学校の学生で、所得がある場合においてもその所得合計が65万円以下(給与所得の場合はは130万円以下)であれば、27万円が控除されます。
物的控除
「人的控除」に対し、保険や医療費などの一定の支出があった際に認められる控除を「物的控除」といいます。
具体的には以下の7つの制度があります。
①寄付金控除
国や地方公共団体などに2,000円以上の寄付を行った人が受けられるものです。
詳細については後に詳しく述べますが、災害の義援金などでも対象となります。
控除額は「年間の寄付金額-2,000円」となります。
②地震保険料控除
地震保険に加入をしている人が受けることができ、実際に支払った保険料全額が控除の対象となります(ただし、上限5万円)。
③生命保険料控除
その年1年間に支払った「生命保険料」「介護医療保険料」そして「個人年金保険料」から、一定の金額が控除されます。
この控除額の計算方法は若干複雑で、その保険の契約が「平成23年12月31日以前かどうか」で『旧契約』か『新契約』かに分類され、それに応じた控除額が決められています。
④医療費控除
その年1年間に支払った医療費の合計金額が10万円以上であれば控除が受けることができる制度です。
控除額については「年間医療費-10万円」で計算されます。
⑤雑損控除
なかなか聞きなれない言葉ですが、天災や盗難などによってご自身の資産に損害を受けた場合において、一定の金額の控除を受けることが出来るというものです。
控除の対象となるのは、資産に損害を受けた人が納税者本人またはその家族(所得金額の合計が38万円以下)に限定されます。
控除される額は、
- 「差引損失額-総所得金額等×10%」
- 「差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円」
のどちらか金額が多い方とされています。
また、もし損失額が大きすぎてその年の所得金額から控除しきれない場合については、翌年以降最大3年に渡って控除することが可能となっています。
⑥小規模企業共済等掛金控除
自営業者や個人事業主などで退職金を用意する目的で「小規模企業共済制度」や「セーフティ共済」などに加入されている方については、その掛け金が所得控除の対象となります。
⑦社会保険料控除
健康保険料や年金保険料などを支払った場合はその全額が所得控除の対象となります。
所得控除と税額控除の違いとは?
所得控除は、「税額を計算する前の所得(利益)」から控除が適用されます。
そして税額控除は、「所得控除を差し引いた後の金額(課税所得金額)に、税率をかけて計算した税額」から 直接、控除が適用されます。
所得控除では、「控除された金額に対して所得税がかかる」ことになります。
税額控除においては「所得控除を差し引いた後の金額」、つまり所得税からさらに控除が出来ることになるため、当然節税効果は後者の方が大きくなります。
寄附金控除とは?
寄付金控除とは、国や地方公共団体などに寄付を行った場合に受けることが出来る制度です。
ただし、この寄付金控除は確定申告で行う必要があることに注意が必要です。会社で行う年末調整などでは対応していません。
寄付金控除の対象
寄付金控除の対象先は以下に限定されています。それぞれについて詳しく解説していきます。
①国や地方公共団体への寄付金
地方公共団体への寄付金としては最近「ふるさと納税」が注目されています。
②特定寄付金
民法の規定によって設立された法人や公益目的事業を行う法人および団体に対する寄付金が該当します。
③特定公益増進法人
特定の公益信託のうち、その目的が「教育又は科学の振興、文化向上など」に寄与すると認められた特定公益増進法人に対しての寄付金が対象となります。
④特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭
上の3と似ていますが、「教育又は科学の振興、文化向上など」に寄与すると認められた一定の公益信託の信託財産とするために支出した寄付金が対象となります。
⑤政治活動に関する寄付金
個人的に支出した政治活動に関する寄付金で、「政党」「政治資金団体」「国会議員や知事」などに寄付を行った場合が該当します。
⑥認定NPO法人に対する特定寄付金
NPO法人はたくさんありますが、その中でも国税庁長官等の認定を受けた団体に対する寄付のみが対象となります。
寄付金控除の計算方法
寄付を行った場合、受ける控除の方法として「寄付金控除」と「寄附金特別控除」のどちらかを選択することができます。
この寄付金控除が「所得控除」に該当し、寄付金特別控除は「税額控除」に該当します。
1.所得控除の計算方法
- 「その年に支出した特定寄付金の合計額-2,000円
- 「(総所得金額×40%)-2,000円
これで算出した額のいずれか少ない方が控除額となります。
2.税額控除の計算方法
税額控除を利用できるケースは、「認定NPO法人」「公益社団法人」「政党」などに寄付を行った場合に限られ、その計算方法は以下のとおりになります。
(1)認定NPO法人に対する寄付
「認定NPO法人等に対する寄付金合計額-2,000円」×40%
(2)公益社団法人に対する寄付
「公益社団法人等に対する一定の要件を満たす寄付金合計額-2,000円」×40%
(3)政党などへの寄付
「政党に対する寄付金合計額-2,000円」×40%
一般的には税額控除の方が有利な場合が多いですが、控除を受けようとする際はまず計算を行い、有利な方を選択するようにしましょう。
寄付金控除を受けるために必要な手続き
寄付金控除を受けるためには、必ず確定申告を行う必要があります。
その確定申告時には必要書類を添付しなければなりません。具体的には以下のとおりです。
1.政治活動に関する寄付の場合
選挙管理委員会の確認印がある「寄付金(税額)控除のための書類」
2.一定の特定公益増進法人に対する寄付
主管官庁から発行される「税額控除に係る証明書」など、その法人が寄付金控除の対象であることを証明するものもしくは認定書のコピー
3.その他の寄付の場合
寄付金の領収書
確定申告の例外となるケース
寄付金控除を受けるには確定申告が必要である旨を述べてきましたが、唯一例外が存在します。
それが、ふるさと納税における「ワンストップ特例」といわれるものです。
ふるさと納税については、地方の特産品がもらえる上に節税効果があるとして最近注目されていますが、この寄付金控除については一定の条件下で確定申告不要で控除を受けることが可能です。
この「ワンストップ特例」の概要は、
- ふるさと納税先の地方自治体数が5以下であること
- そもそも確定申告の必要がない人
がふるさと納税を利用する際、「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」を提出すれば、確定申告は不要になるというものです。
- 唯一のデメリットは、
- 申請書については寄付の都度送る必要がある
- マイナンバーカード(通知カードでも可)と本人確認書類のコピー添付が必要
となっていることですが、最近ではふるさと納税を利用する際、サイトから申し込めばその地方自治体から申請書と返信用封筒を送ってもらえることもあるようです。
こういった制度は是非活用していくようにしましょう。
まとめ
寄付金控除には様々なケースがあり、「所得控除」を使うか「税額控除」を利用するかで控除額が大きく異なります。
もちろん、節税効果を求めて寄付を行うわけですから、自分が行おうとする寄付が寄付金控除の対象となるのか。
そしてその控除が「所得控除」なのか「税額控除」も利用できるのかをきちんと把握しておくようにしましょう。
特に税額控除が利用できるのであれば、その節税効果は所得控除よりも大きくなりますので、必ず事前に確認することをおすすめします。