進学を希望しているけれど、家庭の経済的な事情から学費を支払うのが難しい。
そんな人にとって、ありがたいと思える制度が奨学金制度です。
日本学生支援機構、通称JASSOをはじめ、いくつかの団体から給付、もしくは貸与される奨学金ですが、給付となるには厳しい条件があるので、ほとんどの場合は貸与奨学金となります。
通常のカードローンなどと比較して安い金利で借りることができる奨学金ですが、近年では奨学金を返済することができなくなってしまう奨学金破産となる人も増えています。
奨学金破産の行く末というのは、どのようになるのでしょうか?
今回は、奨学金を借りて大学を出たものの、その支払いが滞ってしまい、奨学金破産をすることになってしまった方の体験談を紹介します。
プロフィール
今回の体験者
- 名前:内村 光輝さん(仮名)
- 性別:男性
- 職業:会社員
- 年齢:29歳
- 居住地:埼玉県さいたま市
- 家族構成:独身
- 年収:250万円
- 借金合計額:300万円
- 借入先の会社名:JASSO
- 借入件数:1件
- 利用時期:2006年4月~2015年3月
どうしても大学に行きたい・・・そのための選択肢
会社員の父、パートとして働く母、そして専門学校に行っている兄との4人家族の次男である僕は、高校2年の冬になってから今後の進路で悩んでいました。
僕の通う高校は県下ではそれなりに進学率が高く、その中で何とか上位に食い込める成績を維持していたので、学校からは大学進学を強く進められていました。
しかし、実家の財政事情は決して芳しいものではありません。
僕が小学生のころ、父の会社は好調で、新築の家を建てたり外車を購入したりと羽振りの良い生活を送っていました。
しかし、その後の不況のあおりを受け、父の会社は倒産。
転職してからは給与も下がり生活が苦しくなって住宅ローンを支払うのが手いっぱいという状況に。
母はパートに出て家計を助け、兄は、パソコン関係の仕事がしたいからと早々に専門学校へ進学し、僕が高校3年生になると同時に卒業・就職する予定となっていました。
仮に僕が大学に進学するとしても、学費を払う余裕は我が家には無いでしょう。
それでも大学に行くのなら、奨学金制度を利用して学費を借り、卒業後に返済するしかないかもしれません。
クラスの大半は進学を希望。
また、僕自身も「高卒で働くより大卒の方が将来就ける仕事の幅が広がるかもしれない。将来のことを考えると奨学金を借りてでも大学に行くべきだろう」と思っていました。
そう考えたのは、父の現在の苦労を見ていたからです。
会社が倒産した後に父が就いた仕事は希望に沿ったものではなく、給料も下がったうえ、勤務時間も長く休日出勤もあるなど、大変そうでした。
そうした父の苦労を見ていたのと、なるべくならいい給料を貰えるようになって父と母に少しでも楽をさせてあげたい、と考えて大学に行くことを決意。
両親にも説明して、奨学金を利用するから学費の心配はいらないこと、実家から通える距離の大学を選んで、アルバイトをするので生活費を家に入れられることなどを説明し、大学進学の許可をもらいました。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
「良い大学から良い会社へ」という神話は、現代にあっても根強く残されているようです。
高校や予備校からは「なんとしても難関大学合格を」といった指導を受けるのが普通に感じられます。
しかし良い大学に入ったら良い人生が半ば約束されていたのは過去の話かもしれません。
4年間の高額な費用を払ってまで、無理して大学に通う必要があるのかは、少し立ち止まって考えてみても良いようにも感じます。
大学合格のために
このようにして両親から大学進学の同意を得ましたが、もう一つ重要なことがあります。
それは、進学先の大学です。
実家から通うとなると、候補となるのは2カ所で、一つは国立大学、もう一つは国立より若干レベルは落ちるものの、一部の分野では国立を上回る有名な私立大学です。
当然、学費を考えると私立大学の方が高いので、基本的には国立大学を目指していくことにし、私立大学は滑り止めのつもりで受けることにしました。
その後、1年間はひたすら勉強に時間を使いました。
経済的な事情から、塾に通う余裕はありませんでしたが、その分参考書などは惜しみなく買い、とことん勉強をしたことで成績も若干でしたが上がっていき、自信がつきました。
そうして迎えた受験のシーズン、センター試験も終わってまずは私立大学の受験が行われ、充分な手応えを得ることができました。
次はいよいよ本命の国立大学です。
その受験当日、運の悪いことに、僕は熱を出してしまいました。
朝の時点で38度を超える熱があり、軽く吐き気もします。
本調子ではない中で精いっぱいのことをしましたが、結局、国立大学は不合格に。
第一志望の国立大学に落ちたことはショックでしたが、幸い滑り止めの私立大学は合格していたので、大学合格という希望は無事叶えられました。
ただし、私立大学ですから当然学費は国立大学よりも高くなります。
年間約100万円、4年間で合計400万円が必要なので、そのうち300万円ほどは奨学金制度を利用しなくてはいけません。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
「国立大学は私立大学よりも学費が安いのは間違いありません。
しかし近年は国立大学の学費も上がってきており、昔のイメージほど安くはないので注意が必要です。
奨学金には給付型と貸与型がありますが、多くの方が利用されることになる貸与型は、後から返済する必要があります。
金利は限りなくゼロに近いですが、奨学金と言っても実質的には借金と同じであることは理解しておかなければならないでしょう。
奨学金申し込み
奨学金の申し込みをすると、面接があります。
この面接では、面接官に色々と質問されることになるのですが、本当に奨学金が必要なのか、なぜ返済を毎月4万円にしたのか…などの質問をされました。
とにかくこれが借金であるということを強調され、もし返すことができなければ自分と同様に奨学金を借りたいと思っている後輩たちに貸すことができなくなる、ということを説明され、きちんと返すようにと繰り返し言われました。
どうにか奨学金の面接にも通り、奨学金が貸与されることになったため、学費の大半はそれで賄うことができました。
学生時代は授業の合間を縫ってアルバイトをし、一つも単位を落とすことなく、それなりに楽しいキャンパスライフを満喫することができました。
就職先についても、何社かの内定をもらうことができたのですが、その時の念頭にあったのが奨学金の返済であり、とにかく給与が高いところを選んで就職することに。
しかし、これが僕の人生を狂わせるきっかけになってしまったのです。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
一般的な金融機関のローンですと、借入した直後から返済がスタートします。
これに対して貸与型の奨学金では原則として、在学期間中の返済は猶予されているのです。
これにより在学中は返済の不安なく勉学に集中することができます。
しかし卒業後しばらくしてスタートする毎月の返済が厳しく感じてしまう人が多いようです。
数百万円もの奨学金の返済は、返済期間がとても長くなることも忘れてはいけません。
社会人としての生活が開始!しかし・・・
僕が選んだのは、不動産会社の営業でした。
基本給も高く、さらに出来高でプラスとなるので、大きく稼ぎたい僕にとってかなりいいと思えたのです。
職場は家から少し遠いため、これを機に一人暮らしを始めることになりましたが、料理などもできるので何とかなるだろうと考えていました。
ところが、実際に働いてみると、思っていたのとはかなり違う生活が待っていたのです。
その会社では、新入社員は誰よりも朝早く出社して、社内の清掃やコーヒー、お茶などを準備しなくてはいけません。
始業時間は8時半ですが、7時半には出社してくる人がいるので、僕は遅くても7時には出社する必要があります。
そのため、毎朝の起床時間は5時になりました。
始業時間までは、資料の整理などを行います。
毎日、多くの資料を使うのですが、片付けに関してはみんな適当で、業務終了後には資料はあちらこちらに散らばり、どこに何があるのか分かりにくい状態になってしまっています。
これをきちんと整理しないと、新入社員である僕が怒られてしまうのです。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
給料が高いことは、それなりの厳しさがつきまとうのを覚悟する必要があります。
とくに上記の例では不動産企業ということで、ノルマが厳しい傾向の業界という印象は否定できません。
「お金目当てで就職先を決める」ことは決して悪いこととは言い切れません。
しかし好きでない仕事の場合には、モチベーション維持の難しさが感じられる場合も多くなります。
ハードな仕事内容
始業時間には朝礼が行われ、大きな声で社是などを暗唱します。
声が出ていなかったり、間違えたりした場合は頭を叩かれたり、足を蹴られたりすることもあります。
一度、うっかりガードしてしまった時はお腹を殴られることになりました。
それから、新入社員は外に連れ出され、駅前で大声を出す訓練をさせられます。
度胸を付けるためといわれ、通行人に色々と話し掛けさせられることも…。
その後は、社内に戻ってロールプレイングでお客様との会話をシミュレーションし、おかしなところがあるとみんなの前で怒鳴られ、ペナルティを受けます。
こうした業務が終わると、今度は資料を渡されてその内容を暗記するように言われます。
この量もかなり多く、読むだけでもかなりの時間が過ぎていきます。
終業時間を余裕で過ぎてしまいますが、資料を覚えるまでは帰ることができないので、毎日22時から23時くらいまで居残ることに…。
ですが、研修期間中は残業が付かないということで、タイムカードはきっちり終業時間に打刻されてしまいます。
こうした生活が1週間ほど続き、あとは実地で覚えろと担当地区を決められ、飛び込み営業をすることに。
募集要項には、ルート営業と書かれていたのですが、実際にはルート営業をするのは自分で顧客を見つけた営業だけで、それ以外は飛び込み営業になるそうです。
この時点で、今でいうところの「ブラック企業」なのではないだろうかと、かなり怪しく思えてきました。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
上記の内容を拝見するかぎり、もしかしてではなく完全なブラック企業と言えるのではないでしょうか。
平成初期であれば「あるある」で済まされる話かもしれませんが、現在では決して許されるようなレベルではないでしょう。
なかなか入社前に見極めるのは難しい面もありますが、就職先を決める時にはお金以外の面も意識的にチェックする必要があります。
身も心もすり減る毎日
不動産の飛び込み営業ですが、家を買いたい人や売りたい人、また土地が余っている人などはそうそういるものではありません。
話を聞いてもらえず、門前払いとなることがほとんどですが、とにかく朝9時から夕方5時頃までは、決められたエリアを回り続ける日々でした。
その間も早朝出社とデータ暗記のための居残りが続いたうえ、営業の成果が上がらなければ上司から厳しく叱責されるため、身も心も急速にすり減っていったのです。
大変だったのはそれだけではありません。
「営業職として働くからにはスーツも安物ではだめだ」と上司から言われ、10万円近いスーツを買う羽目に。
このスーツは、ボーナスが出る度に買わなくてはいけないそうで、革靴もかなり高価なものを買わなくてはなりませんでした。
また会社の飲み会では上司を送り届けるために一緒のタクシーに乗り、反対方向の自分の家までは電車で帰るといったこともしていました。
その際のタクシー代も、私が支払うことになります。
確かに基本給は相場よりも多いのですが、残業代などはかなり少なく、長時間残業した場合も、タイムカードに打刻できるのは毎日2時間までと制限され、それ以降はサービス残業にさせられました。
いくら給料が平均より高いとはいっても、このような出費が重なるようでは、それほど生活に余裕はできません。
休日も、呼び出しが当たり前のようにあり、会社からの電話に戦々恐々としていました。
これでは、出かける時間も、ゆっくり体を休める時間もなかなか作れません。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
オートロックマンションやモニター付きインターホンが普及している現代では、飛び込み営業は一層厳しいかもしれませんね。
まして不動産のような高額案件を飛び込みで成約に至るなど、奇跡に近いことではないでしょうか。
上司の横暴さやサービス残業の常態化など、少しばかり高い給料と引き換えるには、代償が大きすぎる印象です。
退社を決意
大学入学時に借りた奨学金については、会社に入社した年の10月から毎月4万円の返済が始まります。
順調に返済を続けると、7年ほどで完済できるのですが、そのことを考えた僕はぞっとしました。
今の生活を7年間、奨学金を返済するために続けていかなければならないのかと思うと、気が滅入ってしまったのです。
なかなか営業成績も上がらず、月に新規顧客が1件か2件といった状態のため、基本給が平均より高いとはいえ、入社前に期待していたほどの給与には全然届いていません。
僕が新人で未熟なせいでそうなのだろうか、と最初のうちは思っていましたが、働いているうちに、どうやらほかの営業も同じような状態であるらしい、ということがわかりました。
つまり、はなから達成の難しい数字と無茶苦茶な営業方式を押し付け、「数うちゃ当たる」といった形で営業にやらせていただけだったのです。
新卒で入った会社がブラック企業だと確信してはいましたが、奨学金の返済やこれからの生活、両親のことを思うと簡単に辞めることができません。
そのため、嫌々ながらも仕事は続けていきましたが、入社して3年目に倒れてしまいました。
医師からは、過労と心因性ストレスという診断を受けましたが、会社はそんなことはお構いなしで、「職場に戻れ」という電話をひっきりなしにかけてきます。
倒れたことで、それまで自分を支えてきた何かがぷっつりと切れてしまったのでしょうか。
「これ以上こんな会社にはいられない」と思い、退社することにしました。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
大学入学前には「返済はなんとかなる」と思っていても、実際に返済がスタートすると永遠に返済が続くような苦しさを感じてしまうことが多いようです。
毎月4万円の返済というのは、新入社員の給料から引かれる額としては決して少なくありません。
稼いだお金を全額自分のために使える学生時代とは違って、家賃、食費、光熱費などの負担を背負わなければならないのです。
返済が滞ってしまうと
退社するのはいいとして、問題となるのはその後の仕事と生活費、そして奨学金の返済です。
仕事は今後探すとして、当面の生活を考えて奨学金の返済を少し待ってもらえないだろうかと、入院していることを伝えた上で貸与元の団体に相談。
しかし、「それはそちらの都合であってこちらには関係ない。きちんと期日通りに返済して下さい」といわれてしまいました。
確かに返済が滞るのは良くないと、わずかな貯金を切り崩して支払いを続けていましたが、3カ月経った時にとうとう返済ができなくなり、滞納。
すると、今度は連帯保証人となっている父のところに請求が行くようになりました。
困惑した父からの電話を受け、慌てて仕事を探すことにしました。
ですが、まだ体が本調子ではないこともあり、中々仕事が決まりません。
仕方なく、奨学金を返済できないことを理由に自己破産することを決めました。
ところが、自己破産しても借金そのものがなくなるわけではなかったのです。
そのため、保証人である父に、奨学金を一括して返済するようにと、請求が。
僕の奨学金の返済のために、最終的に父は自宅を手放す決断をしたのです。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
日本学生支援機構の場合には、災害・傷病・その他経済的理由により奨学金の返還が困難な場合「返還期限猶予」もしくは「減額返還」を申請することができます。
上記のように「けんもほろろ」に延納を断る団体というのは、実際にはそう多くはないでしょう。
しかし最終的に返済をギブアップした場合、連帯保証人に迷惑がかかることになるのは基本的にはどの貸与型奨学金でも同じです。
奨学金さえ借りていなければ・・・
奨学金を借りた時には、まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした。
奨学金の返済というのは、昔のように生涯雇用、年次で昇給される環境を想定して考えられているのですが、現在は、定年まで働き続けることのできる企業は少数です。
そして、ただ勤務していれば給料がどんどん上がっていくという時代でもありません。
新卒であっても多めの給料をもらえるところを探すと、僕のように問題のある企業で働く羽目になることも珍しくないのではないかと思います。
正直、もっと良い方法があったのではないかと思いますし、高校を卒業してすぐに働いた方がよかったのかもしれないと思うこともあります。
何が正解だったのか、今はまだ分かりません。
とにかく、私のためにマイホームを失った両親に対してお詫びをするために、これからは、無理なく長く勤められる会社で、しっかりと働いていこうと思っています。
監修者コメント
ファイナンシャルプランナー
監修者 武藤 英次の一言コメント!
コメント
上記のケースでは、返済についてお金を中心に考えるあまり、ブラック企業へ就職してしまったことが奨学金破綻の引き金となってしまっています。
現在でも奨学金を利用する大学生は多いようですが、貸与型の奨学金は借金であるという自覚と、将来の長期返済をしっかり考えておく必要があります。